Mobius Ring第一回カップリング投票第八位小説


 ピアス


 仕事の為、滞在しているカナムーン城の廊下を歩いていると、目の前を見知った人物が歩いていた。
 無意識に歩く足が速くなり、ある程度近付いて声をかける。

「レイニー」

 淡い水色のワンピースを着ている金髪の少女は足を止めて振り返った。

「マキ、見てみて」

 ニコニコと微笑の大安売りをしながら、レイニーは黄金の髪を耳にかけながらマキの側に立った。

「さっきタナにピアス、あけてもらったんだ」

 金のイヤリングをしている耳にではなく、反対の耳に小さな青い宝石のピアスがついていた。
 未だ微笑の大安売りをしつつ、右耳のピアスをマキに見せびらかすレイニーは、何処からどう見てもノロケている。
 所構わず馬鹿ップルぶりを発揮する彼女に、マキは苦笑いを浮かべた。

「マキもピアス、あけてみる?」
「え?」

 いきなりの事に驚くが、レイニーは気にせず続ける。

「さっきタナに教えてもらったから大丈夫だよ。それに片方のピアスが余ってるのよ。タナは両耳だし、魔法のアイテムのピアスしかつけないからさ、あげるよ」

 あげるよ、と言われても穴をあけるつもりのないマキは困った。しかしレイニーの強引さに勝てる筈もなく、引きずられるように彼女の部屋に辿り着いていた。

 問答無用でソファーに座らされる。
 レイニーは消毒液と針を持ってマキの背後に立った。

「じっとしてなさいよ」

 レイニーはこう言ったが、マキの心中はそれどころではなかった。
 確か……ではなく、確実に彼女は裁縫が下手だった。不器用ではないのだが、何故か針を持っている手を刺したりする。
 いくらタナに教わったとは言えど、レイニーは針を持てば何処にでも刺すのが得意なのだ。

 不安だ……。
 殺されるかもしれない……。

 あれこれと暗い考えが溢れ始めた頃、レイニーの明るい声で現実に引き戻された。

「はい、終わり」

 レイニーから手鏡を渡され、呆然と鏡を見つめる。
 鏡に映る自分の姿。その左耳にレイニーがつけている物と同じ、青い宝石のピアスが煌いていた。

「どうしたの? 耳、痛い…?」

 後ろから鏡を覗き込みながらレイニーが尋ねる。マキは小さく首を振った。

「いや……レイニーって器用だなって思って」
「タナの教えが上手だからよ」

 ――またノロケられた。

 苦笑いを浮かべると、目の前のテーブルの上に消毒液の瓶と針と、一対のピアスが置かれた。
 ピアスについている宝石はアメジストだ。マキの瞳と同じ紫。
 金髪の少女を見ると、彼女はニヤリと笑みを浮かべ、

「誰かさんとお揃いにしたら?」

 と言って、テーブルの上に置かれた三つをマキに押し付け、部屋から追い出した。
 マキは暫く廊下で立ち尽くしていたが、後で色々と言われるのが嫌なので、素直に“誰かさん”の部屋へ向かった。



 “誰かさん”――マキと同じように仕事でカナムーン国に来ているシャロル国王宮騎士団長フレイは、宛がわれている部屋のソファーでまったりと休憩していた。
 正面のソファーには愛しの恋人が座っている。その恋人の為にお茶を淹れながら、フレイは口を開いた。

「で、なんだったっけ?」
「だから、ピアスを貰ったから、フレイ、つけない?」

 マキから差し出されたピアスは、彼の瞳と同じ紫の宝石のピアスだった。
 フレイはピアスを受け取り、ふと気付いた。

「これ……誰に貰ったんだ?」

 まさか、別の男…!?
 フレイは一瞬そう思った。

「何でか、レイニーがくれたんだ」

 考えすぎだったか、と息を吐いて、フレイはマキにお茶を渡す。マキはレイニーから渡されていた消毒液の瓶をテーブルに置き、フレイの隣に座る。
 フレイの手にあるピアスを取り、再び尋ねた。

「フレイ、ピアス付けない? 俺がつけてやるよ」

 微笑まれて言われ、フレイはピアスを持つ彼の手を優しく握った。

「お揃い?」

 囁くように尋ねると、マキは僅かに頬を赤く染めて頷いた。

 可愛い……と思う辺り、重症なのだろうか。でも整っていて綺麗な顔立ちをしているのだから、可愛いと思って当然だ。
 フレイは柔らかな彼の髪に触れて笑みを浮かべた。

「お願いする」
「あ、うん」

 マキは消毒液の瓶の蓋を取った。
 部屋中に独特な消毒液の匂いが充満する。

 耳たぶに体温を感じて、フレイは何となくカナムーン国は今、ピアスが流行っているのか?と考えた。
 今までフレイは一度もピアスをした事がない。
 似合わないからとか、穴をあける時痛いから嫌だ、という理由ではなく、ただ単に興味が無かったからだ。
 だがこの恋人とお揃いというだけで、ピアスに興味が湧く。常につけていたいと思う。

(重症より、末期だな……)

 フレイは微かに口の端を上げた。


 耳に触れるマキの体温によって、穏やかな気分になっていた時、

「……っ!」

 チクリ、と耳たぶに痛みが走った。

「ぃっ……!」

 チクリッ、どころの痛みではない。神経を傷付けられたような、何とも言えぬ痛みに掠れた声が上がる。

「わっ、ごめん! 血が……」

 焦るマキを横目に眺め、“マックスって不器用だったんだな……”とフレイはしみじみ思っていると、不意に耳に吐息がかかり、その直後、湿った何かが鈍く痛む耳たぶに触れた。
 それが舌だというのに気付いたフレイは焦り始める。

(身体に悪すぎる…!)

 相手が天然なら尚更毒だ。
 溢れる血を舐め取っている舌の動きに、否応なく感じてしまう。
 消毒液があるだろう…! と伝えたいが、言葉に出来ない。
 我慢だ我慢だ、と言い聞かせるが、ふっ、と吐息が耳に触れた途端、フレイの理性は吹き飛んだ。

 マキの両腕を掴み、口唇を奪う。素早く舌を侵入させ、口内を攻める。
 ソファーに押し倒し、深く口付けた。
 角度を変え、何度も口付けるが、マキが無理やり顔を逸らした。

「ちょ…フレイ! 何考えて……」

 赤みの差さった顔で見上げてくるマキに、フレイは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「誘ってるんだろ?」
「なっ…!」

 カッとマキの顔が真っ赤に染まる。

「ち、違うって…!」

 思わず叫んで言うが、フレイは全く聞かず、マキの首筋に顔を埋めて笑っていた。

「フレイ、仕事はどうするんだよっ」
「マックスが誘ったんじゃないか」
「だから、ちが……ん………」

 言葉を遮るように口付けされる。
 触れるだけのキスを繰り返され、マキは諦めて全身の力を抜き、身を委ねた。
 怒られる時は二人一緒だ。
 マキは優しくフレイに口付けた。


 翌朝。
 案の定マキとフレイはカレンに激しく怒鳴られ、一日中執務机に縛り付けられたのだった。


 ―終―



◇反省会◇
 実は朔也恭里、腐女子的文章はコレが初めてだったりします。あははは(壊)
 全然情けなくて申し訳ないです。期待しちゃダメ、勉強してきます修行してきます。慣れるのもどうかと思いますけど。一応健全サイトですしな……。
 ありきたりなピアスネタ。しかもフレイ×マキになってますな(苦笑)。でもま、書きたかった“マキがフレイの血を舐め取る”と“フレイの「誘ってるんだろ?」”が書けたので満足です。
 私の力じゃやってる場面は書けないので、皆さんがそれぞれ想像してやって下さい(爆)。ついでに誰か書いて下さると嬉しいです(待て)
 ここまでお読み下さり、有難う御座いました(土下座)


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