本編12話「必然の偶然」の盗賊団百合組に登場し、タナを足止めしようとして失敗して、海を流されていった魔族は、何日も漂い続け、ある大陸へと辿り着いた。
 白い灯台のある港町らしき場所。

 ひとまず、街へと繰り出してみるか、と歩き始めたのだった。



 一方。
 シャロル国王宮騎士団長のフレイ=カタルト(26)は、今日は港町の警備に当たっていた。
 折角晴れているので、ちょっくら海にでも行くか、という軽い気持ちで、近くの港町までやって来た。本音は、港祭りが夕方から行われるので、そこで色々なお嬢さん方と親しくなろうという考えだが。

 部下を連れて屋台の並ぶ港を歩く。
 空も海も青く晴れ渡っていて、とても気持ちの良い日だ。
 こんな日こそ、いい想い出を作らねば……とフレイが考えていた時、急に灯台の方で悲鳴が聞こえた。

 フレイとその部下数名は、逃げ惑う人々の波に逆らいながら、灯台のある場所へと向かう。
 白い灯台の側には、黒くくすんだ鱗に覆われた、魚人のような魔族が人々を追いかけていた。
 剣を抜き、魔族に向かって構える。

 だが、こんな天気のいい、しかも祭りが始まる前に戦う気のしなかったフレイは、そこら辺を漂っているであろう、雷の大精霊に声をかけた。

「おい、サンダー、大変だ。街の人が魔族に襲われている。力を貸してくれ」(棒読み)

 彼の声がきちんと聞こえていたのか、金の髪に紫の瞳を持つ手のひらサイズの精霊が、フレイの真後ろに姿を現した。

「ふざけるなよ、フレイ!」

 ゲシ、とフレイの頭を蹴る精霊。フレイはその精霊を振り返った。
 頭に白狐のお面をつけ、祭りムードの精霊は、りんご飴をフレイに突き付ける。

「あんな魔族、フレイひとりの力で充分倒せるだろ? 何で祭りの日までこの僕が…!」
「それはこっちのセリフだ! 大精霊ってのは、人々が困っているのを黙って見過ごすのか?」
「うっ…!」

 痛いところを刺され、サンダーは言葉を失う。フレイは彼を見てにやりと微笑んだ。

「さぁ、サンダー。早く魔族、を?」

 魔族に追われていた人々が、二人の元へと駆けて来る。そのうちの何人かの女性は、フレイの姿を見つけて彼の後ろに隠れた。

「フレイ様!」
「助けて下さい、フレイ様!」

 美女達に抱きつかれ、フレイは思わず笑みを零す。

「はっはっは! このフレイ様に任せなさぁい」

 先程までは散々サンダーに魔族と戦わせようとしていた彼だったが、美人を前に格好いい所を見せようと、びしっと剣を構える。
 真っ直ぐ突っ込んでくる魔族を見据え、タイミングを見計らって素早く剣を振り下ろして魔族を両断した。

「素敵〜! フレイ様ぁ〜!」
「フレイ様、ありがとう御座います!」

 フレイの後ろから黄色い声が多数上がる。
 剣を鞘に戻してフレイはクルリと女性達を振り返る。
 極上の笑みを浮かべてフレイは口を開いた。

「お嬢さん方、良ければこれから私と一緒に港祭りでも楽しみませんか?」

 あまりの格好良さに女性達は頬を赤く染め、何度も頷く。そんな女性達を連れ、フレイは屋台へと歩いて行った。

 呆気に取られていたサンダーだったが、慌ててフレイの後を追う。
 数秒遅れてフレイと共にこの港町に来ていた部下たちも、フレイの後を追った。

 シャロル国は今日も平和だったとか。




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