日付変わって深夜三時。
 盗賊団アジトはしんと静まり返り、微かに風の音が聞える。
 少し前に目を覚ましたタナは準備をし、隣室の王子二人を起こしに行く。

「ん……もう時間…?」

 目を擦りながら弟王子のソリューネは素直に起きた。だがエルスは中々起きようとしない。

「寝かせておいたら? 静かでいいじゃん」

 実の弟と思えぬ言葉をサラリと吐く。

 昼間に散々エルスに振り回されたタナは何も言い返さず、彼をそっとしておく事に決めた。
 準備の終えたソリューネと共に部屋を出ようとする。だが扉に向かう前に外から叩き開けられた。

「起きろ!」

 入り口には金髪の少年、カレンが立っていた。夜はまだ少し冷える為、厚手の長袖の服を着ている。
 ズカズカとタナとソリューネの横を通り抜け、未だベッドで眠るエルスの側に行く。そして、

「いつまで寝てんだ! “妖精の涙”を採りに行くんだろ!?」

 ベシベシとエルスの体を叩く。全く王子と思っていない態度だ。

 あまりにカレンが騒ぐので、エルスはやっと目を覚ました。ぼーっとする頭で部屋を見回し、タナの姿を見て慌てて用意を始める。
 それを黙って見ていたソリューネの溜息が小さく聞えた。





 ワナルード山脈の洞窟まで歩いて一時間。
 木々の間から星の光が差していた。
 新緑の草を踏みしめながら四人は黙って歩いた。
 背の高い草をかき分けて進むと、急に開けた場所に出る。
 目の前には洞窟の入り口らしき闇が口を開いていた。

 あまり人が来ることがないのだろう。入り口の周りの草は様々な方向に伸び、洞窟の壁は苔むしていた。
 タナの明かり魔法でカレンは入り口から洞窟を覗くが、ほんの数メートル先しか見えず、あとは漆黒の闇だった。
 外でなら星明かりがあり、多少は明るいが、洞窟内は真っ暗だ。何処から何が出てくるか分からない。

「行くぞ」

 全く怖くないらしく、平然とカレンは歩を進めた。続いてタナが洞窟へ入り、遅れまいとソリューネ、エルスと続いた。



 洞窟の中はじめじめと湿っぽく、そして苔の水臭さが鼻をくすぐった。
 遠くに一定の間隔で水の落ちる音が聞える。

「本当にこんなところに妖精がいるのか?」

 暗く陰湿な洞窟に妖精がいるとは思えなかったので、エルスが誰となく尋ねた。

「そもそも妖精ってどんな姿をしてるんだ?」
「精霊と区別するのが難しいって言われてますね」

 無視しようとしていたが、暴れ出されると困るので、タナは素直に答えた。

「妖精と精霊はそれだけ似ています。でも、精霊の方が力は上で、力が強ければ人に近い姿になったりも出来ます」
「んー、良く分からん」
「妖精の方が悪戯好きなんですよ。それに精霊よりも出会える確率は低いですね」
「悪戯好き…?」
「人間をからかったり、幻を見せて脅したり……」

 言葉の途中でふいに明かりが消えた。四人は闇に包まれる。

「う、わ! タ…タナ!! いきなり何を…!?」

 案の定、混乱し始めるエルス。
 大人しくしていればいいのに、あっちこっちに行き、その度に壁にぶつかって悲鳴を上げていた。

「兄上、落ち着いて!」

 弟のソリューネの方がかなり落ち着いている。兄の服を掴んで遠く離れてしまわないようにする。

「光と、そして火の精霊よ」

 ぱっと明かりが灯った。だがすぐに暗くなる。

「妖精の仕業?」

 近くにいると思われるタナにソリューネは尋ねた。タナが頷いたのが気配で解かる。

「じゃ、タナ、負けないように頑張らないと」
「? どういう事だ?」

 弟に服を掴まれているお陰で、混乱から脱したエルスが尋ねる。
 闇の向こうでタナが笑みを浮かべた気がした。
 辺りの気温が数度下がる。

「悪戯好きの妖精と根比べです」

 冷たい、だけどどこか楽しそうな声だった。

 未だに首を傾げたままのエルスにソリューネは説明する。

「諦めずに魔法を使い続けるんだ。そうすると妖精の方が逆に諦めるってわけ。どっちが我慢強いか一種の勝負なんだ」

 タナの呪文が洞窟内に響き渡る。その度に明るくなるが、長くは持たない。

「ここで攻撃魔法なんかを使って妖精に攻撃しようとしたら、洞窟の入り口まで強制的に戻されちゃうんだよ」

 属性の組み合わせを変えながら呪文を唱える。
 今まで二つの精霊の力を組み合わせていたが、次は三つの力を組み合わせて魔法を発動しようとした。

「三つって……やっぱりタナは凄いよ」

 ぽつりとソリューネの呟きが聞えた。エルスは彼の顔を見る。

「二つでもかなりの魔力を消耗するのに、三つなんて普通の魔法使いじゃ無理だよ」

 その声はタナを尊敬しているというより、自分ではタナのようにはなれないと自嘲じみた声だった。

「気にするなよソリューネ。あいつが化け物みたいなだけだって。俺と比べればソリューネは魔法使いとして立派な力を持っている。俺は母上のような力を持てなかったからさ」

 タナとの勝負も忘れ、エルスは弟を励ました。

 メサム国は魔法国家だ。女王陛下と同じ位の魔力を持っていなかったエルスは幼い頃から疎まれてきた。
 魔力が低いというだけで。
 だがメサム国は男性は王位を継ぐ事が出来ないというお蔭で、そこまで疎まれる事はなかった。
 しかし魔力の低い自分を嫌い、そして女王陛下よりも高い魔力を持って生まれてきたソリューネを何時も羨んでいた。

 彼の気持ちを知っているソリューネは何も言わず、ただ服を掴んでいる手の力を強めただけだった。

 妖精たちが大分諦めかけているのか、タナの魔法の明かりが徐々に強くなってきた。
 追い討ちをかける様に彼の澄んだ声が響き渡る。

「光の精霊よ、全ての闇を打ち消し、世界に希望と言う名の光を灯せ」

 洞窟内に光が溢れる。

 とうとう妖精の方が根負けしたのだ。
 魔法の明かりがタナの頭上で煌々と輝いていた。

「終わったか? じゃ、先へ進もう」

 地面に座り込んで黙って様子を見ていたカレンが立ち上がって歩き出す。
 三人は少年の後を追うように再び歩き始めた。




 足場の悪い道を無言で進む。
 時々雫が首筋に落ちてきて、エルスが「ひゃっ!」とか「うわぁ!?」とか叫んでいた。
 洞窟に入った時よりも道幅は広く、四人が横に並んでも余裕で通れる程だった。

 道はずっと一本道だ。
 迷うことはないが、もし、前方から魔物などが現れた場合、入り口まで戻らなくてはいけない。
 後方にも魔物が現れたとなると、完全に逃げ場を失ってしまう。
 全員がそれぞれ解かっているのか、四人は慎重に歩を進めた。

 妖精と根比べをしてから数十分後。
 ふいにエルスが足を止めた。
 それに気付いたソリューネが足を止め、振り返る。

「兄上?」

 彼の声に前を歩いていたカレンとタナも足を止めた。

「今、何か声がしなかったか?」

 少し顔を青くし、エルスが尋ねる。ソリューネは首を傾げて聞き返した。

「声?」
「ああ、獣の唸り声のような『グルルルル……』って感じの」
「グルルルルル……」
「そうそう、上手いなソリューネ」

 微笑みを浮かべるエルス。だが目の前の弟は顔を真っ青にして彼を見ていた。いや、彼の後ろを見ていた。

 耳元で獣の唸り声がし、恐る恐るエルスは首を後ろに向ける。
 黒く細く硬い毛が、彼の頬に触れる。
 赤い血のような真っ赤な瞳が彼を見ていた。
 さーっと音がするほど顔を青くし、エルスは少しずつそれから離れる。
 だが離れた分だけそれも近付いてくる。
 とうとう背中が壁にぶつかり、緊張の糸がぷつりと切れた。

「ま…魔物だぁああぁっっ!!」

 一目散にエルスは駆け出した。彼の悲鳴にソリューネは泣き出し、慌てて追いかける。

「あ! こら、お前ら!」

 逃げ出した王子二人をカレンは追いかけた。タナも三人を追おうと、目くらましの魔法を放って駆け出した。



 悲鳴を上げてやみくもに走っていたエルスは、急に足が痛み出してその場に倒れた。
 涙を浮かべながら何とか起き上がる。だが両足とも痺れたようにズキズキとし、動かす度に鈍い痛みが体中を走った。

 後ろから駆けて来たソリューネは、兄に躓き、同じように地面に倒れる。
 顔を地面に思い切りぶつけたのか、先程以上に大声で泣き出した。
 泣き出したソリューネの声でエルスは我に返り、冷静さを取り戻し始める。
 ソリューネを抱き起こして彼の頭を優しく撫でた。
 段々とソリューネが泣き止み始めると、カレンが二人の元へやってきた。エルスの隣に座り、溜息をつく。

「全く、勝手に進むなよ。一本道だったから良かったけど、普通なら迷ってたぞ」
「ごめん。ところであの魔物は一体…?」

 カレンに叱られて完全に冷静さを取り戻したエルスは、先程の魔物らしき獣の姿を思い出した。
 黒い毛並みに赤い瞳。全体図は分かり難かったが、何となく狼の類に思えた。

「狼みたいな……。でもいつの間に後ろから来てたんだろう」

 カレンの呟きにエルスは考え始めた。
 道はずっと一本道だった。前方から現れるのならともかく、後ろからやってくるのは可笑しい。どこかに隠し通路があったのか、それともまた妖精の仕業なのか。

「そういえばタナは…!?」

 ずきっと足に痛みが走り、顔をしかめる。泣き止んだソリューネがそれに気付いた。

「兄上、どうしたんだ…?」

 すかさず魔法の明かりを灯し、エルスを見る。

 エルスは痛み出した自分の足を見た。黒いブーツを履いている為、見た目では何も解からない。ブーツを脱ごうと手を伸ばしたとき、ぬるりとした感触がした。
 震える手を見る。
 明かりに照らし出された自分の手は、赤く染まっていた。

「あ……兄上、血ぃ!?」

 ソリューネの声が遠く聞える。意識が朦朧(もうろう)とし、気を失ってしまいそうだった。

「兄上、しっかり! 死んじゃヤダ!」

 ソリューネが再び泣き出す。エルスはゆっくりと瞳を閉じた。

「俺はもう駄目だ……。ソリューネ、母上とリアを頼む……」
「兄上ーーー!!」

「ンな切り傷で騒ぐなよ……」

 感動の場面に冷やかな声がした。隣に座っている金髪の少年が呆れて二人を見ている。

「切り傷…? だって兄上、こんなにも血が……」

 カレンの言葉にソリューネはエルスをよく見た。
 てっきり大量に血が流れていると思いきや、じんわりと血がにじみでているだけで、大した怪我ではないと分かる。
 エルスが気を失いかけたのは、自分の血を見たせいであって、決して怪我の為ではなかった。

 先程までの涙を消し、ソリューネはエルスを突き放した。


 立ち上がろうとすると、近くで爆発音が響いた。同時に爆風が三人を襲い、少し吹き飛ばされる。
 壁に背中を打ち付け、エルスは我に返った。
 痛みの続く足で何とか立ち上がろうとするが、彼を目掛けて何かが思い切り飛んできた。
 それと壁に挟まれ、一瞬呼吸が止まる。
 自分にぶつかってきたものを見て、更に息をするのを忘れ、目を見開いた。

 膝の上に気を失って倒れている黒髪の少年。
 白い顔が青く、そして赤い血がべったりとついていた。

「おい、タナ! しっかりしろ!」

 エルスの声でタナは何とか意識を取り戻す。だが呼吸は荒く、かなりの重症を負っていた。
 あれだけ輝きを放っていた黒い瞳は、ぼんやりと宙をさまよっている。
 顔色はみるみるうちに悪くなっていった。

「死ぬなタナ!」

 少年の頬を叩いてエルスは叫んだ。彼の先程とは全く違う声に、ソリューネが慌ててやってくる。

「ソリューネ、か…回復を…!」

 顔を青くしながらエルスは弟に頼む。彼の側に座り、ソリューネは呪文を唱え始めた。
 だが、タナがやんわりとそれを遮った。

「タナ…!?」

 タナはゆっくりと体を起こした。体中に痛みが走り、顔をしかめる。

「くっ……」
「無理はするな」
「僕は……大丈夫です。それより……」

 どこが大丈夫なんだと思ったが、タナが見ている方を向いて、エルスもソリューネも黙った。

 爆風で巻き上げられた砂や土煙にその姿がちらちらと見える。
 低い唸り声。
 爆風が収まると、それははっきりと姿を現した。
 明かりに照らし出された黒い毛並みの狼。
 血のような赤い瞳が四人をじっと見ている。

「タナ……どうしたらいい?」

 剣が通用しそうにないのは明らかだった。自分たちと同じ位の身長の獣とどう戦えるのか。

「すみません。肩を貸してもらえますか?」
「え? ああ」

 エルスはタナに肩を貸し、彼と共に立ち上がる。それを見たソリューネは声を上げた。

「その体じゃ無理だよ、タナ!」

 悲鳴に近い彼の涙声に、タナはにっこりと微笑んだ。

「大丈夫ですよ」

 その自信がどこからやってくるのか。
 エルスはタナを見て思った。
 自分は決して彼に勝てないと。

 エルスから離れ、タナは呪文を唱え始めた。その姿は同い年の少年とは思えないほど、大人びて見えた。

「風の力をもって気を正し――」

 魔法の明かりに照らし出される少年の黒い瞳が輝いていた。
 先程、光を失っていたとは思えないほど、明るく、そして希望に溢れていた。

「光の力をもって、幻を打ち砕く」

 一瞬、魔物の姿が大きくぶれた。目の錯覚かと思い、エルスは目を擦る。
 だがぶれは収まらず、次の瞬間、ガラスが砕ける澄んだ音が洞窟内に響き、光が溢れた。

 光が収まると、今まで暗くてじめじめしていた洞窟とはうって変わり、足元に様々な花が咲き乱れていた。
 天井を見上げると空が見え、段々と日の光が降り注ぎ始めていた。
 爽やかな風が吹き、足元の花と髪を優しく揺らす。

「あの幻を打ち砕く人間なんて久しぶりだわ」

 急に女性の声がした。四人がそちらを向くと、蔓と木の枝で出来た椅子に、一人の女性がゆったりと座っていた。

 女性の周りを小さな妖精が飛んでいる。
 銀と水色のグラデーションの髪をゆっくりとかきあげながら、女性は立ち上がった。
 裾の長い白いドレスが揺れる度に光が零れているようだった。
 金の瞳で四人の少年を見、そしてタナをじっと見て、女性は笑みを深くした。

「まぁ、『貴方』でしたのね。ご無礼をお許し下さい」

 女性が軽く手を振ると、タナの顔色は良くなり、顔についていた血も綺麗に消えた。
 エルスは足の痛みが消えたのに気付いた。

「貴女は…?」

 じっと女性を見てタナが尋ねた。

「わたくしは妖精の王です。妖精たちをまとめ、そしてこの地を守る者です。無断でこの洞窟に入ってくる者たちを追い払う役目もしていますわ。
 ですから貴方方に幻を見せたりしていたのです。でも『貴方』だと分かっていたら、そんな無礼はせずに真っ直ぐこちらへと案内していましたのに……」

 すみません、と彼女は言った。
 彼女の言う人物が自分ではないという事にすぐに気付いたタナは、ここに来た用件を言う。

「僕たち、“妖精の涙”を採りに来たんです。少し分けて貰えますか?」

 タナの問いに女性は微笑んで頷いた。

「こちらですわ」

 女性に案内されたのは一面、白い花だらけだった。
 朝日を浴び、ゆっくりと花びらを開いていく。
 その花の上を、多くの精霊が飛び回っていた。

「これが、“妖精の涙”……」

 エルスがポツリと呟いた。
 五枚の花びらでできている小さな白い花。妖精の涙を養分とし、朝日を浴びて花開く。

「必要なだけお持ちください」

 女性の言葉にタナは腰を下ろし、魔法を唱えながら花を優しく摘み始めた。
 エルスとソリューネ、そしてカレンはタナの作業が終わるまで、妖精たちに振り回されていたのだった。




 日が完全に昇ったので、“妖精の涙”は全て花びらを閉じた。
 楽しそうに空を飛び回っていた妖精たちはそれぞれ姿を消した。
 散々振り回されたエルスとソリューネとカレンは花畑に座り込み、あるいは倒れこんでいた。

「入り口の方にお迎えが来てますのでお送りしましょう」

 女性がこう言ったので、三人は立ち上がった。

 彼女の周りに集まると、女性は全く聴き取れない呪文を唱えた。
 目の前の景色が一瞬ぶれたと思ったら、苔むした洞窟に戻っていた。
 目の前には出口の光が見える。
 エルス、ソリューネ、カレンが出口へ向かって駆け出す。タナも彼らを追おうと歩き始めた。

「またいらして下さい。『貴方』なら何時でも大歓迎ですよ」

 女性の声がし、タナは振り返った。微笑んで彼女の言葉に頷く。

「それじゃあ、また……」

 こう言ってタナは出口へと歩いて行った。

「また会いましょう。『大賢者様』……」

 女性が小さく呟いた。だがその呟きはタナには届かず、風に乗って消えていった。



 洞窟から出ると、金髪の青年とオレンジっぽい茶髪の女性がいた。
 青年は昨日会ったライローグだ。
 カレンが女性の元へと駆けて行く。
 洞窟内では全くそんな素振りを見せなかったが、彼もかなり怖かったのだろう。
 女性の服に張り付いてタナ達を見ていた。

「王子様方、城までお送りしましょう」

 ライローグの言葉にエルスとソリューネは近くにいた馬車に乗り込む。タナは女性の側にいるカレンに礼を言い、馬車に乗った。
 ライローグが御者席に座り、暫くすると馬車はカナムーン城へと向かい始めた。

 馬車の中にも日が差し込み、とても暖かかった。
 タナの正面に座っているエルスとソリューネはよっぽど疲れたのか、ぐっすりと眠っていた。
 城までは馬車だとほんの数十分。だがタナもかなり疲れていたので目を閉じ、そのままゆっくりと深い眠りに落ちた。

 青い空をバックに、妖精たちが飛び回り、楽しそうに踊る。
 小さな精霊たちもそれに加わり、ちょっとした祭り気分になった。
 洞窟からそれを見ていた妖精の王は、穏やかに微笑みを浮かべ、黒髪の少年との再会を夢見ていた。





 数時間後。

「もうタナとの勝負はやめたよ」

 床に足を伸ばし、クッションに埋もれるように座っていたエルスがふいにこう言った。
 近くの椅子に座っていたソリューネは思わずリンゴジュースを吹き出した。
 侍女が慌てて彼の周りに集まり、テーブルや床を拭き始める。

「やっぱタナには勝てないよ、色々と」

 床にゴロゴロと横になりながら、妖精の洞窟での出来事を思い出し、エルスが呟いた。
 ソリューネは黙って話を聞いている。

「タナに勝負を挑むより、自分の力を上げる事に専念するつもりだ。俺、かなり子供だったって気付いたよ」

 それに気付くまで一体どれだけの時間がかかっただろうか。
 リンゴジュースを飲みながらソリューネは小さく溜息をついた。

 ふと窓の外に目が向く。
 中庭を金髪の少女が歩いているのが見えた。

「あ、マリアード王女」
「何ぃ!?」

 慌てて体を起こし、エルスは窓に張り付いた。
 ソリューネの言う通り、中庭にマリアの姿がある。そして彼女が向かっている先には……

「タナ…!!」

 黒髪の少年の姿を見て、エルスは部屋から飛び出した。
 それから数分もしないうちに中庭から兄の声が聞え、ソリューネは深々と溜息をついた。
 もう暫くはタナも、そして自分もあの王子に振り回されそうだった。



 〜終わり〜





 『Mobius Ring』のカウンター888HITをゲットしたラグ@様のリクで、タナの子供時代です。
 アワワワ……(滝汗)タナ小説どころかエルス王子小説になってしまいました(爆死)しかも書きたいことを沢山書いたらかなりの量に……(更に爆死)すみません、ラグ@様。
 リクエスト有難う御座いました!!(ダッシュ逃げ)



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