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オバケ大パニック【後編】


 町長の家を出て、通りを真っ直ぐ進む。
 日暮れまであと三時間弱。

 この町の事を調べるのは建前で、ジュネの目的はスクリットの町の側にある山に眠る宝だ。

 木造の建物がこの町の役場だと聞き、向かう。
 扉を開けるとまず木のカウンターがあり、その奥に机と様々な書類が入った棚が並んでいた。
 こんな小さな町にあまり人はいらないのか、先程、この町に来る時に話をした黒髪の眼鏡をかけた男性と茶髪の女性、そして白髪の男の三人しかいなかった。
 三人は一つの机に集まって、のんびりとお茶を飲んでいる。

「あのー……」

 帰ろうかと一瞬考えたが、考え直しジュネは小さく声をかける。その小さな声に茶髪の女性が顔を上げた。

「まあまあ。先ほどは死霊犬からこの町を救って下さって有難う御座います」

 ほんの一時間前の出来事なのに、既に噂が広まっている事に、ジュネは少なからず驚いた。
 このスクリットの町はそう大きくもないので、当然と言えば当然なのだが。

「ちょっと調べ物があるんですけど、いいですか?」
「ええ、どうぞ」

 頷いて女性は資料室の鍵を持ってジュネの側にやってくる。
 奥の書類棚の左の扉を開けて廊下を進む。突き当たりの木製の扉の前に到着して、女性は部屋の鍵を開けてジュネを招き入れた。

 女性が付けてくれたランプの明かりで部屋全体が照らし出され、ジュネは思わず感嘆の声を零した。
 木製のテーブルと椅子が一組だけあり、あとはどうやって運び入れたのかと思えるような大きな本棚。その本棚には様々な種類の本や書類ファイルが並んでいた。

「お茶を淹れましょうね。ゆっくりしていって下さい」

 女性がジュネに声をかけ、資料室から出て行く。ジュネは適当なところから本棚を眺め、十五年程前の資料か、スクリットの町の歴史書のようなものを探し始めた。

「誰かが日記を書いていれば早いんだけど……」

 背表紙を見て、これだと思う物を取り出し、違っては元の場所に戻す。
 手当たり次第取り出しては戻す事を繰り返していると、本と共に一枚の紙が本棚から出てきて床に落ちた。

「何だろう、これ……」

 膝を曲げて床に落ちた紙を拾う。何が書いてあるのか両面を見ると、簡単な風景と中央に数人の人間が描かれていた。
 鉛筆でさっと描かれているものなので色彩までは全く分からない。
 村人のような人物と冒険者のような格好の人物が描かれている。

 あった場所に戻そうと、紙を持ったまま立ち上がると、先ほど町長の家に現れた水色髪の女性の幽霊が姿を現した。

「……そういえば、あたしに話があるんだったわよね。何?」
『タフマ山の……に………が……』

 資料室が静かでなければ全く聞こえない程の小さな声。それでも一応聞こえた単語に、ジュネは首を傾げた。

「タフマ山……てこの町の周りの?」

 そう尋ねると女性の幽霊はコクリと小さく頷いた。

「そこに何かがあるのね?」

 ジュネの問いにもう一度小さく頷く。じっとジュネを見つめ、ゆっくりと口を開いた。

『私…貴女……ずっと待…………』

 すっ、と女性の姿が消えてゆく。ジュネは慌てて彼女を止めようとした。

「あたしを待ってたってどういう事!?」

 尋ねたが女性からの返事はなく、静かに姿を消したのだった。

「お茶が入りましたよ」

 穏やかな声と共に、この役場に働いている茶髪の女性が資料室へとやってくる。
 ジュネは短く謝って資料室を飛び出し、町長の家へと駆け戻った。



 町長の家では力を使いすぎて倒れていた筈のチェリーとパッセが仲良く夕食の準備をしていた。

(さっき宴会してたのに、まだ食べるの……?)

 二人のいる台所から美味しそうな匂いがして、ジュネは思った。

「あ、ジュネさん、お帰りなさい」

 台所から赤髪の女性が顔を出す。その後ろからパッセも顔を出した。

「何か見つかりましたか?」
「うん。タフマ山にお宝が眠ってるみたいだから、明日一番に出発するわよ」

 ジュネの言葉に、みるみるパッセの顔が青褪めていく。

「え…えーと……僕は留守番って事で……」
「行くわよ」

 低い声で脅され、パッセは青い顔のまま、何かに操られたかのようにカクリと頷いた。

「チェリー、タフマ山の案内をお願いしてもいいかな?」

 にこやかに尋ねるジュネを見て、パッセは“それは脅迫だろう”と思っていたが、チェリーは顔を輝かせて頷いた。

「はい! 先程は力になれなかったので、是非同行させて下さい!」

 元気に答える彼女に微笑み、ジュネはパッセを睨み付けた。

 “チェリーを見習え”と。

 パッセは項垂れ、小声で「努力します」と答えたのだった。





 翌日。朝一番にジュネとパッセ、そしてチェリーは町長の家を出発した。
 正門ではなく、町の外れからタフマ山へ向かう。
 塀を通り過ぎると、キィン…と澄んだ音と共に、ジュネの姿が茶髪の少女の姿になった。

「やっぱこの町で暮らそっかなー…」

 手鏡に自分の姿を映して、ぼんやりとジュネが言う。
 パッセは幽霊が姿を現した時以上に青白い顔をした。

「まさかジュネさん……僕の魔力を奪う為に僕も同行させているんですか…?」

 鏡にパッセの姿を映し、その彼に向かってジュネはにっこりと微笑む。

「正解」
「ぼ……僕…急に頭が痛くなってきました…!」

 半泣き状態で叫ぶパッセをジュネは睨みつける。

「頭が痛かろうが、お腹が痛かろうが、パッセの魔力があればいいんだがら這ってでも付いて来なさい! それじゃなくても役立たずなのに……」

 盛大に溜息を吐くジュネ。役立たずと言い切られ固まるパッセ。チェリーは苦笑いを浮かべてその二人を見ていた。

「おーい、俺も一緒に行くよー」

 遠くから声をかけてきたのは、スクリットの町の役場で働いている黒髪に眼鏡の男性だった。

「まぁ、ウォーレンさん」

 驚いたチェリーが彼の名を呼ぶ。ウォーレンは三人の元まで駆けて来て、荒い呼吸を繰り返した。
 漸く落ち着いたかと思うと、せわしく三人の顔を見比べ始める。

「えーと。金髪の彼女は?」

 スクリットに来る時に一緒に居たじゃないか何故忘れるんだ、とジュネは言葉にしそうになったが、何とか堪えてウォーレンに説明する為、町に一歩足を踏み入れた。

 先程通った時と同じ様に澄んだ音が響き、ジュネの姿が金髪の女性に戻る。
 面倒臭そうに肩を落とし、ジュネは結界の外に出た。

 ふと、視界が悪くなり、思わず目を擦るが目の前にモヤがかかったかのように白くぼやけている。

「霧が出てきたな」

 ウォーレンの声にジュネは首を傾げる。

「霧? でも昨日は霧はなかったじゃない」
「時々霧が出てくるんです」

 白い霧の向こうにぼんやりとチェリーの赤い髪が見える。

「霧が出た時は幽霊達が凶暴になるので、家から出ないように言われているんですけど……」

 語尾が段々と小さくなってゆく。パッセの小さな悲鳴が聞こえたが、ジュネはそれは無視した。

「それ位ならどうって事はないわね。ところでウォーレン?」

 腕を組んで声をかける。一番近くにいたので何とかウォーレンの姿は見えていた。

「貴方、何かひとつくらい役に立つものでも持ってるの?」

 彼を見る限り、武器のようなものを持っているようには見えない。
 パッセのように役に立たないのなら置いて行こうとジュネは思った。

「チェリーみたいな魔力はないけど、アンデット系の魔物を一匹だけ追い払う事はできるよ」
「そう。なら、改めてタフマ山に向かうわよ。パッセ、青い光を浮かべて」

 ジュネの声にパッセがいると思われる所から青い光が浮かび上がる。

「次、赤!」

 彼女の声の通り、次は赤い光が浮かんだ。

「緑! 黄色! 白! 紫!」
「え? え!?」

 パッセの悲鳴が上がるが、彼は何とか順番通りに光を浮かべた。

「よし、半時おきに今の順番で光を浮かべなさいよ」
「は、はい…」

 情け無いパッセの声と共に青い光がぼんやりと辺りを照らす。同時にジュネも青い光を浮かべて、漸く四人の姿がはっきりと見えた。

「さぁ、キビキビ行くわよ!」

 黄金の髪をなびかせ、ジュネが先頭を進む。チェリー、ウォーレンと続いて、殿(しんがり)のパッセが“また魔力を奪われた……”と項垂れた。




 山登り開始後は、半透明の幽霊がフラフラと四人の元にやって来て、興味を失い去っていく、の繰り返しだったが、徐々に霧が濃くなり、ジュネとパッセが赤い光を浮かべた時、青白い炎をまとった体の大きな死霊犬が姿を現した。
 少し離れた所で、同じペースで進んでいく死霊犬。
 チェリーに何時でも魔法を放てるよう準備させ、ジュネは剣を抜いた。

 暫く沈黙が続く。

 パッセの明かりが小さくなったり大きくなったりしているのを見て、相当怖いんだなぁ、とジュネはしみじみ思った。

 更に睨み合いが続いた後、死霊犬が唸り声を上げ、足を止めて飛び掛る為に低く構えた。咄嗟に四人もそれぞれ構える。
 唸り声が響く中で、ジュネの隣で呪文を唱え始めるチェリー。
 彼女を見て、死霊犬は地を蹴った。

「聖なる力を持って、死せるものは天へと還りたまえ!」

 霧よりも白い、眩しい光が溢れる。
 ジュネ達は手で目を守り、死霊犬の断末魔を聞いた。
 光が収まると死霊犬の姿はなく、ただ霧が広がっていた。

「やるじゃん、チェリー」

 微笑んでジュネはチェリーの肩を軽く叩く。チェリーも嬉しそうに微笑んだ。



 暫くして一行は山登りを再開した。
 黙々と山を登り続ける四人から少し離れた所に、再び死霊犬が同じ速さでついてくる。
 今度はウォーレンが死霊犬を追い払おうとしたが、次々と死霊犬が数を増やし始めた。

「ひっ……!」

 声にならないパッセの悲鳴が上がる。ジュネはこれだけの数を相手に出来るわけがないと判断して、三人に向かって叫んだ。

「逃げるわよ!」

 彼女の声に全員が我に返り、駆け出すジュネの後を追った。
 少しでも死霊犬との距離を取ろうと全速力で走るジュネの目の前に、昨日の水色髪の女性の幽霊が姿を現した。

『こっちへ……』

 ジュネを促し、静かに先へと飛んでいく。ジュネは躊躇う事無く彼女を追った。


 三つに分かれた道を迷わず左へ進み、更に分かれた道を右へ進んで、漸く女性の幽霊は止まった。
 日頃から鍛えていないジュネ以外の三人は、地面に倒れ込むように座った。ジュネも走り疲れて地面に座り込むが、女性の幽霊がもう少し進むように四人を急かす。
 ジュネはともかく、パッセ、チェリー、ウォーレンは立つことすら出来ずにいた。

「情けないわねー」
「そ…そんな事を言われても……」

 激しく肩で息をしているパッセが切れ切れにジュネに言葉を返した。ジュネはというと、呆れて三人を睨みつけている。
 そして漸く先ほどから何かを訴えようとしている女性の幽霊へと目線を向けた。

「何?」
『ここに居ては……駄目…』
「何で?」

 ジュネが尋ね返した時、茂みの向こうから何かを引きずる音と、腐った嫌な臭いがしてきた。

「な……何?」

 珍しくジュネが青い顔をする。他の三人は疲れきっている所為か、音すら聞こえていないようだ。

「ジュネさん、どうかしましたか?」

 三人の後ろを凝視して固まっているジュネを訝しく思い、チェリーが声をかける。だがジュネは応えず、その方向をじっと見つめていた。

 次の瞬間、茂みから悪臭を放つ人型の魔物のような物体が飛び出してきた。
 顔を始め、腕や足まで全て腐っており、片目は飛び出している人の死体のようなものが複数。
 悪臭により、吐き気が起きるが、何とか堪える。

『ゾンビだわ』
「って、腐った死体って事!? この近くにお墓でもあるの!?」

 悲鳴に近いジュネの声。パッセとウォーレンは顔を真っ青にして固まっている。チェリーもあまり良い顔色はしていなかった。
 役立たず三人を見て、ジュネは舌打ちをし、とにかくゾンビ集団を何とかしようと呪文を唱え始めた。

『ゾンビは炎に弱いわ』

 女性の幽霊の言葉通り、ジュネは炎を巻き起こす。

「赤き焔よ! この役立たず達もまとめて燃やしちゃって!」

(そんな呪文があるか!)

 パッセは思わず心の中で突っ込みを入れたが、ジュネの事だから本気だろうと、炎が来ないと思われる方へと逃げる。チェリーとウォーレンも別の方向へと逃げていた為、炎はゾンビ集団を燃やし尽くし、全く食べ足りないと辺りの木々をも燃やし始めた。
 霧がある為、そんなに燃え移らないだろうとジュネは思っていたが、霧すら構わず炎は躍り狂っていた。

「やー、明かりがなくても充分明るいわねー」
「「ジュネさん!!」」

 現実逃避をするジュネに、パッセとチェリーは綺麗にハモって叫んだ。

「分かったわよ。消せばいいんでしょ。大体あなた達が役に立たないからこんな事になるのよ」

 ブツブツと愚痴りつつ、大気の水を集めていく。
 集められた水が雨のように炎に降り注ぐが、炎が消える事はなかった。

「もう! パッセ! 後は頼んだわよ!」

 パッセに後始末を押し付け、ジュネは水色髪の女性の幽霊と歩いていこうとする。
 それを見てチェリーとウォーレンは慌てて追いかけたが、パッセは炎を消すまでここから離れることは出来ず、泣く泣く水魔法の呪文を唱え始めた。



 山登りを始めて二時間。
 死霊犬、ゾンビの他に骨だけのスケルトンや、最悪のものなら大きな鎌を持った死神などが途中途中に姿を現した。
 一番役立たずのパッセを囮にし、ジュネは剣で、ウォーレンは魔法を放って隙を作り、チェリーが止めを刺す。
 それでも切りが無かったので、最後はやはり逃げ出した。

 水色髪の女性の幽霊の案内で、漸く頂上にやって来た。
 タフマ山の頂上には霧がなく、遠くの景色までよく見渡せる。
 霧がかかっている為、スクリットの町までは見えないが、空は青く広がっていた。

「さて、お宝は何処かしら?」

 キョロキョロと辺りを見回すジュネ。女性の幽霊はふわりと奥へと飛んでいく。
 彼女を追い、辿り着いた所には、ジュネの膝くらいの高さの小さな石版と、その前には錆びた一本の剣が平らな石に刺さってあった。

「これが……お宝……?」

 愕然とジュネは錆びた剣を見つめた。
 確かに長い年月、雨や風に晒されればいくら魔剣といえど、錆びるのは当たり前だ。
 ジュネはガセネタを掴まされたんだと気付き、ガックリと項垂れた。

「こんな剣があったんですね」

 チェリーののん気な声が聞こえる。

「錆びる前は相当の魔剣だったんだろうね」

 指で眼鏡を押し上げ、ウォーレンが言う。
 石版を見ていたパッセが声を上げて三人を呼んだ。

「ここ、何か書かれてますよ!?」

 彼の声に三人は石版の周りに集まり、何が書かれてあるのかを覗き見た。

「読んで」

 ジュネに言われ、パッセはじっくり石版を見、書かれてある文字を読み上げる。

「えーと。『魂の。わたしは、貴方に』それから『これ下さい』?」
「ちょっと、真面目に読んでるの!?」

 文章になっていない単語だけを読み上げるパッセを押しのけ、ジュネが石版に書かれてある文字を見た。

「こんなものすら読めないなんて、魔法使い失格よ!」
「そんな……」

「いいわね? ここに書いてあるのは……。『親愛なる』……」

 ジュネは石版に両手をつき、睨むように文字を読んだ。

(ちょっと待って。これってあたしの一族に伝わる言葉じゃない……)


 ――親愛なる赤き瞳を持つ一族へ――
 この魔剣エスプリを捧げます。きっと役に立つことでしょう。
 一族の未来と幸せを願って。

 シアン=ウィステリア



「ジュネさん?」

 黙り込んだジュネを心配そうに見て、チェリーが声をかける。
 ジュネは頭を振ってパッセを睨んだ。

「この剣の名前はエスプリ。貴方のお母様…シアン様がここに置いていったものよ」
「え…? 母が?」

 驚いたパッセはまじまじと剣を見つめた。

「抜いてみたら? 錆びてボロボロだけど、あんたには丁度いいんじゃない?」
「どういう意味ですか」

 半眼で睨まれるが、ジュネは目を逸らして青い空を見上げた。
 パッセは剣に向き直り、抜いてみようと柄を両手で握る。
 力一杯引き抜こうとしたが、ビクともせずに剣はそこに佇んでいた。

「引いても駄目なら押してみろって言うじゃない? 折れば?」

 何て事を言うんだ、と三人はジュネを見る。だがそれも一理あるな、とパッセは剣を折る事にした。
 それでも剣は折れる事無く、真っ直ぐと平らな石に突き刺さっていた。

「情けないわねー。もっと鍛えなさいよ。次、チェリーがやってみたら?」
「え? 私ですか?」

 自分を指差し驚いてチェリーはジュネを見る。

「チェリーはスクリットの町長の孫でしょ? もしかしたら抜けるかも」
「はぁ……」

 ジュネに言われ、取り敢えずチェリーは剣を抜こうとするが、パッセの時のように剣が抜ける事はなく、折ろうとしても折れなかった。
 試しにウォーレンにもやらせてみたが、同じく全く駄目だった。

「仕方ないわね。あたしがやってあげるわ」

 役に立たない三人に溜息を零し、ジュネは剣の柄を握る。
 まず引き抜こうと引っ張ってみたが、ビクともしなかったので、折ってやると力を込めると、パキィッ! と金属特有の澄んだ音がタフマ山の頂上に響き渡った。

 妙な沈黙が辺りに下りる。

 数十秒程沈黙が落ちた後、パッセ、チェリー、ウォーレンが一気に騒ぎ出した。

「か、怪力!」
「ジュネさん、そんなに力が強かったんですね」
「はははは母の剣を折るなんて……!」
「ちょ……別にあたしは怪力なんかじゃ…! 剣が勝手に折れたのよー!!」

 折れた剣を持ったままジュネは慌てて弁解する。
 それでも騒ぎ続ける三人に、折れたボロボロの剣を向けて黙らせようとすると、剣からまばゆい光が放たれた。

 あまりの眩しさに四人は黙る。
 光が収まると、ジュネが持っていたボロボロの剣は、太陽の光を受けて煌く白銀の剣となっていた。

「魔剣は錆びても元に戻れるんだ……」

 驚きのあまり、ずり落ちた眼鏡を押し上げながらウォーレンが言う。ジュネは暫し剣を見つめてパッセに渡した。

「パッセ、持ってなさいよ」
「え? でも僕、剣は使えませんから……。ジュネさんが使って下さい」

 微笑んで言う彼に、ジュネはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「そう? パッセがそう言うのなら……」
「あ゛っ! 売っちゃ駄目ですよ! 母の形見なんですから!!」

 ジュネの笑みの理由に気付いたパッセが叫ぶが、ジュネの耳には届いていなかった。

「わー、霧が晴れましたね」

 チェリーの声に全員がスクリットの町がある方角を見る。
 先ほどまで白い霧に覆われていた町だったが、今はその姿をきちんと見せていた。

 ふ、とジュネは水色髪の女性の幽霊がいない事に気付く。
 辺りを見回し、手に持っている剣を見下ろして納得した。

「シアン様の残留思念か……」

 剣に残していたパッセの母、シアンの意識の欠片。
 そしてスクリットの町やタフマ山に霧や幽霊が現れたのは、剣を守る為と剣の魔力に引き寄せられた為だと知る。

「有難うシアン様。大切にするわ」

 剣を見て、小さく笑みを零す。

「さて。今日こそ山菜料理を頂くわよ!」

 元気良くジュネは声を出して、三人と共に山を下り始めた。



 帰り道。ジュネはチェリーとウォーレンに教わりながら山菜を採って帰り、料理代をタダにしてもらおうとしていたが、敢え無くパッセに止められたのだった。


 +END+
 2003/01/23 up




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