あの日の事は今でもはっきりと覚えている。
 風が強く、解放軍の軍旗がはためいていた。
 青い空をバックに、彼の姿は一段と輝いていた。
 勇気と、希望の光を湛えた黒い瞳が印象的だった。



 遺品



 天高くに丸い月が浮かんでいた。その月光は同盟軍本拠地の古城を優しく照らしていた。
 風も無く、時間は既に深夜を回っているのか、かなり静かだ。遠くに虫の声が聞える。

 城の屋上に立ち、ぼんやりと景色を眺めていたフリックは、ふと首から下げている細い銀の鎖を服の下から取り出した。首から外し、手のひらに乗せる。

 月の光を反射して輝くエメラルドの宝石。
 それは小さなイヤリングだった。

「フリックさん」

 急に声を掛けられ、慌ててイヤリングを握り締めて振り返った。
 屋上の入り口の側に一人の少女が立っていた。ふわふわの金の髪が耳の下まで伸びている。

「眠れ…ないんですか?」

 フリックの側まで歩きながら少女は尋ねた。

「ニナ…。何でここに?」

 僅かに動揺しながら尋ねると、ニナはにっこりと微笑んで説明してくれた。

「中々寝付けず、外の空気を吸おうと思って部屋を出たら、フリックさんの姿が見えて。こっそり後をつけて来たんです」

 フリックの隣に立ち、彼の顔を覗き込む。

「考え事ですか?」
「ん、ちょっと昔の事を思い出していたんだ」

 そう呟いてゆっくりと手を開く。
 片方だけの小さなイヤリングがキラリと輝いた。




「リーダー、これは?」

 急に手渡され、フリックは戸惑いながらに尋ねた。

 晴れた日。今日は最後の戦いの日だった。
 棍を片手に各部隊に指示を出していた解放軍のリーダーが、フリックの姿を見つけて駆けて来た。ズボンのポケットから何かを取り出して渡す。

「オデッサさんのイヤリングなんだ」
「オデッサの…?」

 小さなエメラルドの宝石のついたシンプルなイヤリング。
 宝石の奥には細かく地図が描かれている。

「この戦いも、もうここで終わりだから、フリックに渡しておこうと思って」

 フリックは手の平の上のイヤリングをじっと見つめ、の言葉に耳を傾けていた。

「以前マッシュが言っていたんだ。『このイヤリングは解放軍を受け継ぐ者が持っておくべきです』って」

 さぁっと二人の間を風が吹き抜ける。兵士達の声が響いていたが、あまり気にならなかった。

「この戦いで僕の、解放軍リーダーとしての役目は終わり…。だったら――」

 の黒い瞳がフリックを見て微笑んだ。太陽の光を反射し、とても綺麗だ。

「恋人のフリックが持っていた方がいいと思うんだ。
 数少ない、彼女の遺品だから……」

 青い空をバックに立っているの姿はどことなくオデッサに似ていた。

 解放軍のリーダーとして。
 内側から溢れてくる何か。

「ありがとう」

 思わずイヤリングを握り締め、フリックは呟いた。




「フリックさん…?」

 急に現実に引き戻され、フリックは慌てて声がした方を向く。
 目の前には金髪の少女。
 思い切り考えに没頭していた彼の顔を心配そうに見つめている。
 フリックはイヤリングに通している細い鎖を首にかけて服の下にしまい、ニナの頭を軽く叩いて微笑んだ。

「早く寝ろよ」

 それだけ言って部屋に戻って行く。
 屋上に取り残されたニナは、暫く入り口を見つめていた。


 〜END〜



●後書き●
 これは〜、幻水本を作ろうとしていた時の、シリアス漫画になるはずの物でした。漫画は描けないし、折角だから小説にしてUPしちまえ!! と書いてみました。
 意味不明でしかも短すぎてすみません(汗)。坊ちゃん出てるから満足ですけどね。



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