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 長期間滞在出来るように一通りの物が揃っている部屋に、レイニー、ダリ、アイミの姿があった。
 お茶を飲みながら、三人は扉を潜った後に起きた事を話していた。

「全く…。性質が悪いわよ、アイオンって」

 脚を組んでソファーに腰を下ろしているアイミが、お茶のカップを持って眉を僅かに顰めて言った。
 アイミは扉を抜けた後、ミズカ国王へ謁見しようと廊下を歩いていた。しかし何時まで経っても国王の執務室へ向かう為の階段に辿り着かなかった。
 まるで自分自身が無意識に蓋をしている部分に触れられた気がして、アイミはかなりご機嫌斜めだった。

 正面のソファーに座るダリは小さく苦笑したが、彼もアイミの意見には賛同していた。

「確かにあの精神攻撃みたいなのはやめて欲しいよね」

 あのままフレイが来なかったら、遺跡ごと破壊し兼ねなかった、とダリは言った。

「あ、タナ、カレン」

 フレイと共に部屋に現れた二人に気付き、レイニーが声をかける。
 ふ、とタナはここに来た本来の目的を思い出し、フレイを見た。

「そういえば、書庫とかってあります?」
「ああ、この部屋を出て真っ直ぐ行った突き当りが書庫になってる。好きなだけ調べてくれ」
「有難う御座います」

 フレイから書庫の鍵を受け取り、タナは頭を下げた。

「じゃあ俺は仕事で戻らないといけないから、二日後に迎えにくるよ」

 ちらりと窓の外に目をやって時間を確認したフレイは部屋を出て行った。その後を追うかのように、タナたちも書庫へ向かった。


 フレイが言っていたように、部屋を出て真っ直ぐ進むと大きな観音扉があった。扉を潜ると所狭しと本棚が並んでいた。

「うわぁー」

 感嘆の声を上げてダリが部屋に入り、近くの本棚へ足を向けた。他の四人も驚いて部屋の中を見渡していた。
 正面には数段階段があり、入口よりも少し下がっている。その先にゆっくり本を読んだり出来るように丸い机が二つと椅子が四脚ずつ置かれてあった。
 奥にもずらりと本棚が並び、更に奥、壁際に並ぶ本棚の間にとある物が飾られていた。

「これって……」

 それに気付いたレイニーが小さく呟いて歩み寄る。彼女に少し遅れてタナもそちらに足を向けた。

 部屋の一番奥の壁に一枚の肖像画がかけられてあった。
 描かれていたのは一組の男女。金髪の女性は椅子に腰掛けており、彼女の隣に黒髪の若い男が立っていた。

「大賢者アイオンですね」

 ここに来る前に見た二人が、肖像画の中に存在していた。




15:彼の存在場所


 全員が寝静まった深夜。
 目が覚めてしまったレイニーは部屋から抜け出し、温かいお茶でも淹れようと、少し離れた場所にある簡易台所へ向かった。

「…あれ?」

 その途中、通路の奥の書庫の扉が僅かに開いており、中から明かりが漏れているのが目に入った。
 まだ誰か起きているのだろうか、とレイニーは書庫へ足を向けた。

 すると部屋から黒髪の青年が現れ、彼女に気付く事なく歩いていく。寝室に戻るでも無いタナの姿を訝しり、レイニーは青年の後を追った。
 かなり近い距離にいるレイニーに、タナは全く気付かず足を進めていく。レイニーも声をかけるタイミングを失い、無言でタナを追いかけた。

 黒髪の青年は何度か道を曲がり、階段を下り、更に分かれ道を迷う事なく突き進んでいく。既に帰り道が分からなくなったレイニーは、眉を寄せてひたすら後を付いて行った。

 タナが足を止めたのは、書庫から十分程歩いた頃だった。
 彼の前には一枚の金属製の扉があった。複雑な彫刻が施されている扉。その扉を見上げる青年に、レイニーはようやく声をかけた。

「タナ、どうしたの?」
「……レイニーさん」

 タナは一度レイニーを振り返り、すぐに目線を扉に戻した。

「誰かに呼ばれた気がして……」
「?」

 レイニーは首を傾げて彼の側に立った。
 扉を見上げるタナがそっと右手を上げる。すると扉の上の方にある緑の宝石が眩しく光を放った。

「――わっ!?」

 あまりの眩しさにレイニーは思わず手で目を庇った。
 光の中、タナでは無い別の人影が歩いていくのが一瞬見えた。

 光が収まると扉は消え、道が出来ていた。躊躇うこと無くタナが足を踏み入れる。レイニーも慌てて追った。
 二人が扉のあった場所を通り抜けると、瞬時に明かりが点され、辺りがはっきりとした。

 扉の先は小さな空間だった。何も物は置かれておらず、あるのは壁に飾られている一本の長い杖。
 柄の部分は細く、黒く塗られた木で出来ている。先端は金の装飾がされてあり、丸い緑の宝石がはまってあった。
 その宝石がキラリと煌く。直後、二人の脳裏に映像が流れた。


『……ったく、折角もらった…を……するな……』
『…いいから早く……』

 若い二人の男の声。それと同時にその姿も浮かび上がる。
 一人は短い金の髪を逆立てており、紫の服を着ている青年。もう一人は腕を組んで青年を睨みつけている黒髪の男。

『大体、杖無しじゃ魔法は使わないように言われてたけど、いいの?』

 溜息混じりに金髪の青年が尋ねると、男は肩を竦めただけだった。

『もう必要無い。かと言って捨てる訳にはいかないしな』
『君の師匠のサイラスが知ったら嘆くよ……イリィも』

 やれやれと青年が言うと、黒髪の男は青年の首に巻かれてある黄色のスカーフを引っ張った。

『だから早くしろよ! イリィに見つかるだろうが!』
『くるしいってば…ッ!!』

 じたばたと暴れる青年の姿が見えて、映像はプツリと途切れた。


「……今のは……」

 呆然と杖を見つめ、タナが呟く。同じようにレイニーも青い目を擦って杖を見た。

「その杖はアイオンが使っていた物だよ」

 不意に背後から声がかかり、タナとレイニーは驚いて振り返った。
 腕を組み、入口のすぐ横の壁にもたれていたのは、今の映像にも出てきた金髪の青年サンダーだった。彼は紫の目を細めて杖を見ていた。

「使いたいなら持っていきなよ。アイオンの師匠が作った杖だから、役に立たない事もないだろうし。まぁ、魔力補助装置だけどね」
「いいんですか…?」

 目を丸くしてタナが尋ねると、サンダーは頷いて笑みを浮かべた。

「何時までもここにあっても邪魔だしね」

 タナは杖に向き直った。右手をそっと伸ばすと、杖の先端の宝石が一瞬煌いた。しかし先程のような強い光ではなく、小さな淡い光だった。
 まるでタナを新しい持ち主として認めるかのような。

 タナはじっと手の中の杖を見下ろした。

 柄はやけにしっくりときて握りやすい。そしてサンダーが魔力補助装置と言っていたように、自分の中の魔力の流れを上手い具合に調整出来そうだった。
 これから四大精霊に会い、魔力の封印を解くタナにとって、こんなにも性能の良い杖が手に入ったのはタイミングが良かった。

 タナの手に馴染んでいる杖を満足そうに見て、サンダーは大きく欠伸をして二人に声をかけた。

「じゃ、僕はいい加減寝るよ。二人も夜中にウロウロしてないで早く寝る事!」

 まるで親のような事を言い、人間臭い動作で大精霊サンダーは姿を消した。
 タナとレイニーは揃って苦笑いを浮かべていたが、ふとタナが表情を改めてレイニーを真っ直ぐ見た。

「レイニーさん」
「何?」

 きょとんと青い目をタナに向け、レイニーは首を傾げる。タナは杖をしっかり握り直した。

「カナムーン国に戻ったら、早速四大精霊に会いに行こうと思ってるんですけど……」

 珍しくタナが口篭った。しかしレイニーは気付かず目を輝かせる。

「へぇー、面白そう!」

 そこまで言ったレイニーはふ、と真顔になり、タナの顔を見上げた。

「……あたしがついて行っても邪魔だよね…?」
「いえ、そんな…」

 上目使いで尋ねられ、タナは微かにたじろいだ。レイニーは僅かに青い目を曇らせてタナから目を逸らした。

「子供の時からタナに助けてもらってばかりだもんね……」

 レイニーが溜息混じりに小さく呟いた。再会してからもタナはいつも自分の事を守ってくれている。
 じっとレイニーを見ていたタナは、ふわりと微笑んだ。

「気にしないでください。僕が望んでやってる事なので」

 レイニーは顔を上げてタナを見た。彼の微笑みはその言葉が本心からのものだといった笑みだ、とレイニーには分かった。
 遠回しに気持ちを告げられた気がして、レイニーは照れ臭くなり、またタナから僅かに目を逸らした。

「レイニーさんも行きませんか? 折角なので大精霊にお会いしておくのもいいかも知れませんよ」

 優しく言われ、レイニーは少し悩んだ。
 今まで以上に危険な旅になりそうな予感はしたが、大精霊とやらに会える好奇心の方が勝っている。
 レイニーは頷いてペコリと頭を下げた。

「足手まといにならないように頑張ります」

 その様子に、タナは小さく笑って頷いた。





 次の日。タナ、ダリ、アイミは朝から書庫に篭っていた。カレンは大精霊サンダーを連れて遺跡の中を見て回っている。そしてレイニーは簡易台所で簡単な昼食の用意をしていた。

 前日シャロル国の兵士が用意してくれたパンと、干し肉を温め直している時、台所にある窓がコツ、コツと小さく叩かれ、レイニーは手を止めて窓に目を向けた。
 窓枠に一羽の黒い鳥がやってきており、嘴で窓をつついていたのだ。良く見るとその鳥は黒い羽に覆われた鷲(わし)だった。
 この鷲も昼ご飯が欲しいのだろう、とレイニーはそちらに足を向けて窓を開けた。
 鷲はするりと台所に入り、直後、黒い鷲は淡い赤色の光に包まれ、その姿を変えた。

「――えっ…!?」

 光の中から現れた人物に、レイニーは小さく悲鳴を上げ、思わず後退った。

 レイニーの目の前にいたのは黒髪の女性だった。黒い男物の上着を見事に着こなしており、まるで男装の麗人だった。
 彼女は緑の目を細めてレイニーを真っ直ぐ見た。鋭い目に睨まれたレイニーは、恐怖の余り言葉を失い、混乱しながら考えていた。
 恐らくこの女は迷いの森に現れた魔族だろう。印象深かった冷たい緑の双眸。押し潰されそうな威圧感は未だ記憶に新しい。

 顔を青くし、見つめてくるレイニーに、女は小さく溜息を吐いて口を開いた。

「何もしないわ。今日は貴女に話をしにきたのよ」

 高くもなく低くもない中性的で、魔族とは思えないくらいの穏やかな声色に、レイニーは強張っていた肩の力を僅かに抜いた。

「……話?」

 恐る恐る尋ねると、女は、そう、と一度頷いた。

「サフラン…タナに伝えておきなさい。魔力の封印を解いても、その力に溺れない様に。
 ……その力に自惚れないように、と」
「え…どういう…―っ!?」

 レイニーは咄嗟に手を顔の前にかざした。パシッ、と小気味良い音が響き、手の中に何かが投げられた。
 ゆっくり手を動かし、手の中にあるものを見下ろす。
 女がレイニーに投げ渡した物は、銀製の細いブレスレットだった。レイニーには読めない文字が装飾のように彫られている。

「餞別よ。そのブレスレットには魔力が封印されているわ。あいつに渡しておきなさい」
「えっ!? こんな怪しい物を!?」

 魔族が渡すアイテムは呪いのアイテムに違いない、とレイニーは眉を吊り上げて言った。しかし鋭い緑の目に睨まれ、大人しく黙る。

「私からじゃない。いつもあいつの事を考えている奴からよ。そう言えば分かるわ」

 それだけ言って女は窓へ足を向けた。パッと姿が光に包まれ、ここに来た時と同じ黒い鷲に変わる。
 呆然とブレスレットを見ていたレイニーは、慌てて声をかけた。

「ねぇ! 何で魔族がこんな手助けみたいな事をするの!?」

 黒い鷲は一度だけレイニーを振り返ったが、何も応えずに冬の空に飛んでいった。
 レイニーはしばらくその姿を見つめていたが、ブレスレットをしっかりと握って、タナのいる書庫へ駆け出した。



 目的の青年は、書庫の丸机に備え付けられている椅子に腰掛けて、分厚い本を読んでいた。
 かなり集中しているのか、レイニーが慌てて書庫にやってきても気付かない。
 レイニーは荒い息を整えて、青年の元へ向かいながら声をかけた。

「タナ、ちょっといい?」

 声をかけられ、ようやく青年が顔を上げる。レイニーのただ事では無い様子に、慌てて立ち上がった。

「レイニーさん、どうかしました?」

 レイニーはひとつ深呼吸をして、タナを見上げた。

「さっき魔族が現れて」

 黒髪の青年の表情がみるみる内に険しくなっていく。レイニーは構わず続けた。

「迷いの森で会った魔族。タナに伝言を言いにきたの」
「セルジュさんが…?」

 タナが小さく呟いた。その表情は意外そうに驚いていた。レイニーは彼が魔族の名前を知っていた事に驚いたが、先に伝言を伝えた。

「魔力の封印を解いても、その力に溺れるな。自惚れるなって」

 タナは黙って話を聞いていた。レイニーを見つめる黒の双眸は何処か遠くを見ていた。

「それとこれを預かったんだけど……」

 レイニーはずっと握っていた銀のブレスレットを差し出した。

「タナの事をいつも考えてる人からだって」

 その言葉にタナの脳裏にある人物の姿が浮かび上がった。
 子供の頃、自分を助けてくれた金髪の男性。橙色の瞳はどこか寂しそうに微笑んでいたのが印象的だった。

「……タナ?」

 レイニーの心配そうな声に、タナは我に返って微笑んだ。

「すみません」

 謝ってタナはブレスレットを受け取ろうと手を伸ばした。しかしレイニーがその手を下げた。

「レイニーさん?」

 彼女の行動を訝しり、タナが尋ねる。レイニーは不安そうに眉を寄せてタナを見た。

「これ、呪いのアイテムだったりしないよね?」

 うっかり魔族の言葉を信じて持ってきてしまったが、あのセルジュという魔族が嘘をついていて、タナに何かしらの呪いがかからないとも言い切れない。
 今からでも捨ててしまおうか、とレイニーはブレスレットを睨みつけた。だが、タナの手がやんわりとレイニーの手を包んだ。
 驚いて顔を上げると、タナは微笑んでレイニーを見ていた。

「大丈夫ですよ。あの人はそんな回りくどい事はやらない人ですし」
「タナがそこまで言うなら……」

 レイニーは渋々ブレスレットを手渡した。タナは銀製のブレスレットをまじまじと見つめる。

「このブレスレットに関して、何か言ってました?」
「えっと…魔力が封印されてるとか」
「成る程……」

 ブレスレットに彫られている文字はタナにも読めない物だった。恐らくこの文字が読めないとその封印は解けないのかも知れない。

「封印を解かない限り、ただのブレスレットみたいですね」

 そう言ってタナは手首につけてみた。レイニーが目を見開いてブレスレットを睨みつけるが、何も変化は起きなかった。

「……何ともない…?」

 再び不安そうな表情でレイニーが尋ねる。タナは微笑んだまま頷いた。

「ええ、何ともありません」
「そっか……」

 ようやくレイニーがほっと胸を撫で下ろした。そしてふとある事を思い出し、勢い良くタナを見上げた。

「ねぇタナ。何で魔族がこんな助言とか手助けとかするのかな…?」

 先程セルジュに投げかけた質問をタナに尋ねた。タナは笑みを消してブレスレットにそっと触れた。

「……魔族の中には人間と争わない人もいるみたいですよ」

 このブレスレットを授けてくれた人物が、正に人間とは争わない魔族だった。
 全ての魔族が人間を敵対視している訳ではない。

「そうなんだ…」

 レイニーもブレスレットを見て呟いた。しかし不意に声を上げる。

「あ、お昼ご飯の用意してたんだった…。すぐ出来るから一緒に行こ」

 微笑んで言われ、タナも頷いて微笑み返した。





 翌朝、一行はカナムーン国に戻り、四大精霊に会いに行く事になった。
 まずは北大陸のワナルード山脈にいると言われている風の大精霊の元へ向かう。
 ワナルード山脈には風読み士の里があり、彼らと風の大精霊は深い繋がりがあるらしい。
 アイミが何度か風読み士の里にお世話になった事があると告げたので、彼女の案内で向かう事になった。

 シャロル国から迎えの馬車がやってきて、五人はアイオン研究所から港町まで向かった。王宮騎士団長は本日も忙しいらしく、五人の迎えには来れなかったようだ。

「あれー?」

 港町に到着して馬車を降り、カナムーン国行きの船へ向かっている途中、不意にダリが声を上げた。

「フレイじゃん」

 船の乗船口の所に立っていたのは、シャロル国王宮騎士団長のフレイだった。相変わらず遠巻きに若い娘たちに見つめられている。
 ダリの声にフレイは片手を上げて挨拶をした。

「待ってたよ。タナに会って欲しい人がいてね」
「僕に、ですか?」

 タナが僅かに首を傾げてフレイの側に歩み寄る。フレイは片手を上げて、側の兵たちに声をかけた。

「ユーリ殿」

 彼の声に兵たちの間から背の高い男がゆっくりと現れた。
 短い赤毛がサラリと潮風になびく。黒鉄の鎧が動きに合わせて小さく音を立てる。赤く細い目がタナを捉えた。
 タナは思わず見上げた。フレイも背が高い方だが、目の前の人物は彼よりも更に背が高く、がっしりとしている。そして背中に大剣を背負っていた。

「ノイル国の剣士、ユーリ=イアン殿。こっちはカナムーン国王宮魔道士のタナ=トッシュ殿」
「初めまして」

 フレイに紹介され、タナは頭を下げた。赤毛の剣士ユーリも小さく頭を下げて口を開いた。
「お忙しい所申し訳ない。邪魔にならないようであれば貴殿の力になるようにと、ノイル国王の命を受けて参った」

 タナは僅かに目を見開いた。

 ノイル国はここシャロル国より遥か北に位置する国だ。カナムーン国とは殆ど関わりのない国から使者が来るのは意外だった。
 ちらりとフレイを見ると、彼はあの薄い笑みを浮かべて説明してくれた。

「ユーリ殿は別件でシャロル国に来ててね。タナが来てるっていう話を聞いてさ。ついでにタナが四大精霊に会いに行こうとしてるっていうのも、つい話しちゃって……」

 タナはそこで眉を顰めた。フレイには四大精霊に会いに行く事は伝えていない筈だ。
 訝しげにフレイを見ていると、同じ疑問を持ったらしいカレンが代わりに尋ねた。

「何だよ。二日前立ち聞きしてたのか?」
「まさか」

 青い目に睨まれ、フレイは肩を竦めた。

「うちにはお喋りな情報網がいてね。誰とは言わないけど、雷馬鹿の……」

 そこまで聞いてタナは内心溜息を吐いた。
 フレイの話を聞く限り、雷の大精霊サンダーがフレイとユーリが会っている時に、うっかりタナの事を話したらしい。
 だからと言って別に困る事はないが、カレンは気に入らなかったらしい。

「……大精霊にはプライバシーというもんは無いのか?」

 その呟きにフレイは苦笑いを浮かべただけだった。
 タナはユーリに向き直った。

「魔族と戦う危険な旅ですけど、宜しくお願いします」

 タナがぺこりと頭を下げると、ユーリは頷いた。

「ああ、こちらこそよろしく頼む」

 タナも頷き、そして再びフレイに目をやる。

「フレイさん、お世話になりました」
「ああ、気にするなよ。どうせまたすぐ来るんだろ?」
「ええ」
「その時にはサンダーの奴を締め上げておくよ」

 にっこりと微笑んで言うフレイに、タナは小さく苦笑した。

「美しいお嬢さん方、またお会いしましょう」

 フレイはレイニーとアイミの前に立ち、それぞれの手を取って恭しく挨拶をした。
 港町に出港の銅鑼が鳴り響く。タナたちはフレイにそれぞれ軽く挨拶をして、船に乗り込んだ。





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